幻の開会宣言
１９８９年８月、ＦＩＣＣ設立５０周年の世界大会が、音楽の都ウィーンで開催された。開会式は、正装した数組の男女による華やかなウィンナワルツで幕を開けた。次いでＦＩＣＣ会長が舞台に上がって、開会の挨拶を始めた。
が、その途端、参加者の間から激しいヤジとブーイングが飛んだ。あっけにとられた会長は挨拶を中断した。しかし、騒ぎはいっこうにおさまらず、ＦＩＣＣ会長はとうとう開会宣言をあきらめて舞台から降りてしまった。
ウィーン大会は当初、ドナウ川の中洲の公園で行う計画だったが自然保護団体の抗議に合い、まぎわになって会場の変更を余儀なくされた。急遽、代わりの会場として、鉄道線路沿いに分散する空き地が当てられた。隣のサイトやレストランに行くにも道路を歩いて行かなければならない。トイレや洗面所も急ごしらえのうえ、狭い敷地に押し込められた参加者は、主催者の不手際に対し不満を募らせていた。それが開会式で、最高責任者であるＦＩＣＣ会長に向けて爆発したのだ。この事件はマスコミも大きく取り上げ、連日報道した。
それから数日後に開かれたＦＩＣＣ総会が荒れたのは言うまでもない。オーストリア連盟の会長は「平和の祭典への政治勢力の介入」と「キャンパーの非協力的な態度」を非難した。各国の役員はオーストリア連盟とＦＩＣＣ執行部の責任を厳しく追及した。
私はそのやりとりを聞いていて大いに失望した。本当に批判されるべきは、政治勢力でもなく、オーストリア連盟でもない。「キャンプは環境破壊」という攻撃に有効に反論できなかったＦＩＣＣ自身ではないのか。今回のスキャンダルは、定款で自然保護をうたいながら、ＦＩＣＣが環境問題に真剣に取り組むことを怠ってきた報いではないのか、と。
今年５月島根県の浜田市で開催される第５５回ＦＩＣＣ世界大会では、世界中から集まったキャンパーがＦＩＣＣの未来をかけてキャンプと環境問題について討議する。
（日本オート・キャンプ協会 「キャンパーニュース」 1994年1月）