近代社会でオートキャンプが誕生するための条件は次の3つである。
（１）工業化
工業化により所得が増えるとともに、都市住民のなかで野外に出て自然と触れ合いたいという欲求が高まる。
（２）モータリゼーション
モータリゼーションが進むと、より多くの人が車を持てるようになり、道路が整備されることによって車での移動が容易になる。
（３）中産階級
オートキャンプが発展するためには、その中心的な担い手である中産階級が形成されていなければならない。
現代の中国は急速な勢いでこの3つの条件を満たしつつある。そのような観点から、現代の中国は日本でオートキャンプが誕生した高度経済成長時代の1960年代に類似した状況にあると言える。
しかし中国におけるオートキャンプの発展速度は日本の場合よりはるかに速いと予想される。その理由の1つは中国ではすでにキャンプ産業が発達しているからである。中国にはキャンピングカー、テント、ファニチャーなどのメーカーが多数存在しており、主として海外に輸出している。日本もキャンピングカーの部品やキャンプ用具を中国から輸入している。たとえば日本に輸入されるテントの83 ％、タープは87％、寝袋に至っては93％が中国で生産されている。
現在の中国は供給が圧倒的に先行し、国内需要がそれに追いついていない状態にある。しかし中国の人口は日本の約10倍であり、しかも高い経済成長率を維持している。中国で日本をはるかに上回る数の人々がオートキャンプを楽しむようになるのは時間の問題だろう。
オートキャンプが胎動する現代の中国で、最先端を行く企業の一つがCRVCである。中国RVキャンピング株式会社の略称で、母体は警察車や消防車などの特殊車両を製造する中天高科特殊車両有限公司である。18万4000平方メートルの敷地に建てられた天津工場は、年間6000台の車両生産能力を有する。
ここで2001年に中国初のキャンピングカー5040XLJが作られた。現在天津工場は従業員800人を擁し、毎年キャンピングカーを3000台生産している。このうち国内向けに販売されるのは500台程度で、残りはすべて欧米に輸出されている。CRVCは現在アジア最大のキャンピングカーメーカーである。
CRVC は2002年に中国で初めてキャンピング・ツーリズム・サービスを専門的に提供する会員制クラブ「云南センテックRVクラブ」を設立した。その後も新疆や広州など、各地にクラブを設立、現在は全国で10のRVクラブを運営し、会員数は合計60万人を数える。年会費は750円（１元＝15円で換算）でCRVCが経営するキャンプ場を利用できるほか、提携施設の割引サービスが受けられる。今後はインターネットを活用して、会員数を300万人に増やすことを目標としている。
2003年CRVCは本格的にキャンプ産業に投資することを目的として、北京に中天行投資管理有限公司を資本金約100億円で設立。新疆自治区の喀納斯（カナス）にキャンプ場第１号を建設した。現在は中国各地に24箇所のキャンプ場を経営している。自社製のトレーラーハウスを常設したキャラバンパークが中心で、テントキャンプ用のサイトも併設している。これらのキャンプ場の稼働率は非常に高く、オンシーズンで70％、通年でも40％に達する。
海南島にある海口ホリデー・ビーチレジャー・キャンプ場の例で見ると、太平洋に面した海浜キャンプ場で、椰子並木の間にトレーラーハウス39台が設置されている。場内は芝生が植えられ、通路は敷石が敷かれている。トレーラーハウスはシャワーとトイレを備えており、上下水道と接続されている。このキャンプ場では寝具を毎日交換するなど、利用客にホテルと同様のサービスを提供することを方針としている。料金は日本円で約4200円と高級ホテルより若干安い程度であるが、中国本土からの観光客を中心に人気が高い。
CRVCは現在営業している24のキャンプ場で運営経験を積み、経営モデルを確立した上で中国全土にキャンプ場をチェーン展開する構想である。
中国の国土面積は日本の約25倍あり、しかも日本が四周を海で囲まれているのとは異なり大陸である。中国のオートキャンパーがシルクロードを通って中東やヨーロッパにキャンプツーリングをするようになるのも、そう遠い将来ではないだろう。
（日本オート・キャンプ協会「オートキャンプ」2010年1月）