今年、国際キャンピング＆キャラバニング連盟（ＦＩＣＣ）に中国の団体が加盟しましたが、それを聞いてどのような感想をもちましたか？
今年3月ブリュッセルで開催されたＦＩＣＣの理事会で承認されたものですが、中国がＦＩＣＣに加盟してアジア・パシフィックの一員になることは私にとって長年の夢でしたから、とても嬉しく思いました。
これまで中国がＦＩＣＣに加盟していなかった理由はなんですか？
ＦＩＣＣにはアジアから日本、台湾、韓国の３カ国が加盟していますが、ご承知のように中華人民共和国は「一つの中国」の原則を主張し、台湾を国として認めない立場を取っています。過去何回かＦＩＣCは中国と接触し、中国の加盟を図りましたが、中国がＦＩＣCからの台湾の除名を求めたために進展しませんでした。今回中国側が初めて台湾の存続を認めるという柔軟な姿勢を示したためにＦＩＣC加盟が実現したものです。
中国から加盟したのはどのような団体なのでしょうか？
団体の名称は中国語で「中国体育休閑文化発展協会」(China Sports Leisure Culture Development Association)と言います。中国で関心が高まりつつある観光・スポーツ・レジャーの発展を、とりわけアウトドア・レクリエーション活動に焦点をおいて推進していこうという団体です。
中国内のオートキャンプの現状を教えて下さい。
高度経済成長下にある中国はちょうど日本でオートキャンプが誕生した1960年代に類似した状況にあると言えます。しかし当時の日本と大きく異なるのは、中国ではすでにキャンプ産業が高度に発達しているという点です。中国にはキャンピングカー、テント、ファニチャーなどのメーカーが多数存在しており世界中に輸出しています。日本で売られているキャンプ用具も大部分が中国製です。また中国RVキャンピング株式会社（CRVC）はキャンピングカーを年間3000台生産しており、アジア最大のＲＶメーカーです。オートキャンプ場も各地にあり、中国政府は今後５年以内に国立公園などの景勝地を中心に800箇所のオートキャンプ場を建設する計画であるとも言われています。
中国のオートキャンプは経済況同様に著しい伸びを見せているということですが、今後とも発展を続けると思われますか、それとも一時的なものと考えますか？
今後も間違いなく発展します。なんと言っても中国は人口が日本の約10倍、国土面積は日本の約25倍あり、しかもGDPでは日本を追い抜き世界2位、自動車の販売台数に至ってはアメリカを抜いて世界1位です。近い将来中国のオートキャンプ人口は日本をはるかに上回るでしょう。
中国の加盟はアジア・パシフィック委員会に大きな影響があると思いますが、委員会やアジア・パシフィック大会はどのように変わっていくとお考えですか。
これまでアジアでは日本、台湾、韓国の３か国持ち回りで毎年アジア・パシフィック大会を開催してきましたが、中国の加盟により4か国で開催することになります。さらに中国の加盟に刺激されて、インド、タイ、マレーシア、シンガポールなどアジアの他の国々もＦＩＣＣに加盟するでしょう。そうなればＦＩＣＣのグローバル化構想に基づき、現在アジア支部として活動している「アジア・パシフィック委員会」は「アジア太平洋連盟」となり、現在ＦＩＣＣの中核をなしているヨーロッパは「ヨーロッパ連盟」となり、ＦＩＣＣ自体はそれらの上部機関となります。
また、現在続けられているアジア・パシフィック大会は「ＦＩＣＣ世界大会」となり、世界大会はヨーロッパとアジアで開催されるようになります。その場合に中国がアジアのリーダーとなってアジア連盟を引っ張っていくのは間違いないでしょう
今後アジア・パシフィック大会は中国を含めた４か国で開催するということですが、台湾との関係で何か問題はありませんか。
昨年11月に台湾で行われたアジア・パシフィック委員会の会議で来年2012年に中国で第１５回アジア・パシフィック大会が開催されることが決定されました。これはアジアにとってもＦＩＣＣにとっても大変歴史的な意義のある決定です。しかし政治的なレベルで中国と台湾の関係に大きな障害があります。現在中国側は台湾に２つの条件を出しています。
第１に、台湾の国旗は中国内に持ち込んではならない。第２に、「中華民国」の名称を使用してはならない。これは現在ＦＩＣＣに加盟している中華民国露営協会に名称の変更を求めるものです。いずれも台湾のメンバーにとって容易には受け入れがたい要求であり、今後なんらかの解決案を探らなければなりません。
日本と中国間の他、アジアの国際関係は、ここ数ヶ月でこれまでにないほど緊張感が高まっていますが、キャンプはそうした状況をわずかでも緩和させるなど何らかの役目を持つと思いますか？
1933年に初めてイギリスで開催されたＦＩＣＣ世界大会は第二次大戦後、鉄のカーテンによってヨーロッパが東西に分断された冷戦時代にも開催されました。西側で開催されたときはチェコスロバキア、ポーランド、ハンガリーなどの社会主義国から東西の壁を越えて参加し、東側で開催されたときは西側諸国から多数のキャンパーが参加して相互の交流を深めました。それはＦＩＣＣの歴史の最も偉大な部分です。このＦＩＣＣの精神をアジアで実現することがアジア・パシフィック委員会の使命ですが、今回の中国加盟はその成果であり、未来に向けての大きなステップでもあります。
これに関連したエピソードがあります。2002年に韓国の東海市でＦＩＣＣ世界大会が開催されましたが、このときＦＩＣＣ会長を団長とする大陸横断キャラバン隊がＦＩＣＣ本部のあるブリュッセルに終結し、ヘルシンキ、モスクワ、ウラジオストック、中国、そして北朝鮮を通って東海市に入るという遠大な計画を立てました。そのためにＦＩＣＣは北朝鮮に入国ビザの発給を中国政府経由で申請しました。北朝鮮政府の反応は思いがけず好意的でしたが、折悪しくブッシュ大統領が北朝鮮を敵対視する政策を取ったために態度を硬化させました。そのため計画は変更されてモスクワから、キャンピングカーと人をシベリア鉄道で運び、ウラジオストックからフェリーで韓国に入ることになりました。
今回、中国がＦＩＣＣに加盟したことにより北朝鮮がキャンパーに対して門戸を開く可能性が再び生まれたと思います。
こうした状況の変化はＦＩＣＣやアジア以外の加盟国にはどのような影響があると思われますか？
近い将来、アジアはヨーロッパおよび北米と並ぶキャンプ大陸となります。特にヨーロッパとはアジアは陸続きなので、シルクロードやロシアを経由して大陸横断キャンプツーリングが盛んになるでしょう。世界のオートキャンプは歴史の新しい局面に入ります。
ありがとうございました。
（日本オート・キャンプ協会「オートキャンプ」2010年12月）