今年７月にアイルランドで開かれるＦＩＣＣ（国際キャンピング＆キャラバニング連盟）の総会で、西暦２０００年の世界大会の開催国が決まる。２１世紀最初の世界大会の開催に立候補しているのは、イタリアとドイツである。ドイツとしては実に２８年ぶりの立候補であり、この歴史的な大会にかける意気込みがうかがえる。ＦＩＣＣもこの大会を、２１世紀における連盟の命運を左右する重大イベントとして位置づけ、先月視察団をドイツ現地に派遣した。
大会開催地のレッヒブルックは、ミュンヘンから１５０キロ南下した人口２４００人の小村である。周辺には白鳥城で知られるフュッセン、中世の景観をとどめるロマンチック街道、雄大な自然と民俗が融合したチロルなど観光にはことかかない。
世界大会の会場に予定されているキャンプ場はドイツ・キャンピングクラブの直営で、美しい湖に面し、周囲をアルプスの山々に囲まれている。１区画約１００平方メートルのピッチが１０００個近くあり、大会には周囲の牧草地を利用して５０００ピッチ用意する。さらに６０００人収容のビッグテントを設置してメイン会場とする。年間３０万泊の実績を誇るキャンプ場だけに、施設および管理体制は申し分ない。
主催者の説明を受けた視察団の面々は、口にこそ出さないが、総会の投票を待つまでもなく、３年後の世界大会はドイツ以外にはあり得ないことを確信した。満を持してこの歴史的大会に名乗りをあげたドイツ・キャンピングクラブとは、いったいどんなクラブなのか。
ドイツ・キャンピングクラブ（ＤＣＣ）は、戦後間もない１９４８年、西ドイツ地区占領軍の特別の許可を得て設立された。創立者で初代会長のマックス・エッケルトが、「キャンプの普及はドイツの民主化に寄与する」と司令部を説き伏せたと言われている。
ドイツは戦後、奇跡の経済復興とモータリゼーションの到来を背景に、１９５０年代のテント全盛時代、１９６０年代のキャラバンブーム、そして１９８０年代から始まるモータキャラバンの普及を経て、ヨーロッパ最大のキャンプ王国の座に着いた。現在ドイツはキャンパー総数１２００万人、キャンピングカー保有台数１４０万台、キャンプ場５９００カ所と、どれを取っても群を抜いて多い。
ドイツにおけるオートキャンプの目覚ましい発展を終始リードしてきたＤＣＣは現在、正会員約１５万家族、賛助会員約４７０社を擁する世界で有数のキャンピングクラブである。
本部はミュンヘンにあり、その下に２２の支部がある。これらの支部は行政単位である州をベースにして地域別に区分けされている。ＤＣＣに入会すると、居住地に応じて自動的にいずれかの支部に所属することになっている。
それぞれの支部の下にはクラブ（地区クラブ）があり、その数は合計約３００ある。ただし、ＤＣＣを構成する組織単位はあくまでも支部であり、クラブは支部会員が自由意志で組織するグループである。したがって、クラブの拘束を嫌う会員はクラブに入会する必要はない。クラブ員も非クラブ員も日本円に換算して約５６００円の年会費を直接本部に払い込み、その対価として受けるサービスにも違いはまったくない。クラブ員はこのほかにクラブ会費をそれぞれのクラブに納めるが、その額や活動内容はクラブによって異なる。当初はクラブに所属する会員のほうが圧倒的に多かったが、その比率は逆転し、いまではクラブ員の割合は全体の２割に満たない。本部に納入される会費のうち、１人当たり約７００円がそれぞれの所属会員数に応じて各支部に運営金として支給される。
ＤＣＣは公益法人として約３億円の会費収入で運営されており、キャンプ場経営、出版、キャンプショウ開催などの収益事業は、すべてＤＣＣが出資設立した会社で行っている。こうした会社は、直営キャンプ場を含め全部で１２社ある。それらの売上総額は約１３億円。そのうち最も大きな割合を占めるのはキャンプ場経営であり、年間８億円を生み出している。
ＤＣＣの直営キャンプ場は９カ所、契約キャンプ場は約４００カ所である。このほかに、ＤＣＣと契約は結んでいないが、約１０００カ所のキャンプ場が自発的にＤＣＣのメンバーに割り引きを提供している。
ＤＣＣがこれほど多くの会員をひきつけている魅力はなにか。それは大きく分けて次の４つである。
（１）割引：キャンプ場１０００カ所以上、「キャンプ場ガイド」など出版物、ペナントなど製作物の会員割引。
（２）安全：賠償保険、団体災害保険、カルネ（ＣＣＩ）。
（３）情報：機関誌「キャンピング」のほか、キャンプ、旅行、技術などに関する相談サービス。
（４）交流：支部大会、全国大会、ヨーロッパラリー、ＦＩＣＣ世界大会。
かくまでに多数の会員を擁していながら、ＤＣＣはその会員メリットをあらゆる形でアピールして新しい会員の募集に努めている。そのひとつに機関誌上で行っているユニークな会員紹介キャンペーンがある。新入会員を１人紹介する毎に約１２００円を翌年度の年会費から減額するというものである。
そこにはこう書かれている。「ＤＣＣがキャンパーの利益を代表する組織としてさらに大きな影響力を獲得するためには、会員数をいっそう増やすことが不可欠です。この目的を達成するために、ぜひ皆さんのご協力をお願いします。」
（日本オート・キャンプ協会「オートキャンプ」１９９７年４月）